クアラルンプールからチェンナイまでの飛行時間はおよそ三時間四十分くらいである。時差が一時間ある。出発時間が大幅に遅れたので、チェンナイ到着は深夜の一時半ぐらいだったと思う。
小規模な空港で、こんな深夜だというのに、出迎える人たちでごった返している。頭にターバンをまいた人、ひざの辺りまでのスカートとも腰巻きとも言えない布を巻き付けた男性たち、口にチョビ髭を蓄えているが、頬はこけて、あまり十分に食べていないように見受けられる肌の黒い人たちの、物欲しそうな目付きに圧倒される。彼らは荷物運びや、タクシーの運転手たちである。その中に子供たちもまじっている。彼らは物乞いである。
入国審査を受けるとすぐに、バスに乗りこんだ。日本語の達者な若者がガイドとしてついていた。彼はタミール人で、日本には一度も行ったことがないという。しかし、その達者な日本語に、私は舌を巻いた。山内さんがバスの中で教えてくれたが、タミール語は、文法構造が日本語と似ているという。語順が日本語と同じなので、単語さえ知っていれば、並べるだけで通じるそうだ。
バスのドアが壊れかけていて、タミール人のガイドの一人がそれを布で支柱にくくりつけていた。日本では考えられないことである。昭和三十年代頃に見かけた旧式のバスである。しかし、これでもインドの人たちがぎゅうぎゅうに詰められて乗っているバスに比べれば雲泥の差がある。彼らのバスの座席は粗末な木製で、窓ガラスも嵌められていないし、エアコンももちろんない。
街灯の明かりのもとで見る異国情緒たっぷりの町には、ところどころにゴミの山が作られている。ペンキのはげかかった看板とシャッターの降ろされたせまい入口の店がひしめきあっている。
道路を走っている車は、二輪車が多い。どの車もクラクションをしきりに鳴らす。ソテツ、椰子の木、名前は分からないが胡椒の木やユーカリの木に似た、熱帯地方特有の木々の並木を通りすぎて、四十五分ほど走って、プリーズ・ホテルに到着した。
日本では平均的ホテルというところだが、インドでは高級ホテルの部類に入るだろう。部屋に入ると、さっそくシャワーを浴びた。摂氏五十度ぐらいの熱湯は出るが、水がでない。水の栓をひねろうとしてもびくともしない。まったくゆるめることができない。
ルーム係を呼ぼうとしたが、チップというやっかいなものがあるので、呼ぶことは止した。そもそも、最初にトランクを部屋に運んでくれたポーターは、荷物を部屋においてもその場につったって部屋の外に出ていこうとしない。彼らは山内さんから一括してチップをもらう手筈になっている。私が英語で
「ユーシャル・ゲット・チップス・フロム・ミスターヤマウチ・ドンチューノウ?」
と言ったら、すぐに出ていった。
というわけで、水でうすめない熱湯を浴槽に二十センチほどはって、それで体を洗った。硬水であるから、シャップーや石鹸の泡がまるでたたない。しかし、長時間飛行機に乗ってきた後のシャワーはしごく快適である。
私はシャワーから出て、家内がシャワーを浴びている間に深い眠りに落ちてしまった。
そしてチェンナイへ
2010年07月30日 · コメント(0) · 未分類
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